まんがん
満願

冒頭文

これは、いまから、四年まえの話である。私が伊豆の三島の知り合いのうちの二階で一夏を暮し、ロマネスクという小説を書いていたころの話である。或る夜、酔いながら自転車に乗りまちを走って、怪我(けが)をした。右足のくるぶしの上のほうを裂(さ)いた。疵(きず)は深いものではなかったが、それでも酒をのんでいたために、出血がたいへんで、あわててお医者に駈けつけた。まち医者は三十二歳の、大きくふとり、西郷隆盛に似

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年9月27日