ちどり
千鳥

冒頭文

千鳥の話は馬喰(ばくろう)の娘のお長で始まる。小春の日の夕方、蒼ざめたお長は軒下へ蓆(むしろ)を敷いてしょんぼりと坐っている。干し列べた平茎(ひらぐき)には、もはや糸筋ほどの日影もささぬ。洋服で丘を上(あが)ってきたのは自分である。お長は例の泣きだしそうな目もとで自分を仰ぐ。親指と小指と、そして襷(たすき)がけの真似(まね)は初やがこと。その三人ともみんな留守だと手を振る。頤(あご)で奥を指(ゆび

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本文学全集18 鈴木三重吉 森田草平集
  • 集英社
  • 1969(昭和44)年9月12日