池のほとりに来た。蒼黒い水のおもてに、油のやうな春の光がきらきらと浮いてゐる。ふと見ると、水底の藻の塊を押し分けて、大きな鯉がのつそりと出て来た。そして気が進まなささうにそこらを見まはしてゐるらしかつたが、やがてまたのつそりと藻のなかに隠れてしまつた。 私はそれを見て、以前引きつけられた支那画の不思議な魚を思ひ出した。 私は少年の頃、よく魚釣に出かけて往つた。ある時、鮒を獲らう