もりのこえ
森の声

冒頭文

自分は今春日の山路に立つてゐる。路の両側には数知れぬ大木が聳え立つて、枝と枝との絡みあつたなかには、闊葉細葉がこんもりと繁つて、たまたまその下蔭を往く山番の男達が、昼過ぎの空合を見ようとしたところで、雲の影ひとつ見つけるのは、容易な事では無い。何といつても、承和の帝から禁山(とめやま)の御宣旨があつて以来、今日まで斧ひとつ入らぬ神山である。夏が来て瑞葉がさし、冬が来て枯葉が落ちる。落ちた木の葉は、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆21 森
  • 作品社
  • 1984(昭和59)年7月25日