はつがえる
初蛙

冒頭文

一 古沼の水もぬるみ、蛙もそろそろ鳴き出す頃となりました。月がおぽろに、燻し銀のように沈んだ春の真夜なか時、静かな若葉の木かげに立ちながら、あてもなくじっと傾ける耳に伝わる仄かなおとずれ—— 「くる……くる……くる……」 と、古沼の底から生れた水の泡が、円く沼の面に浮びあがったと思うと、そのまま爆ぜ割れるような、それによく似た物の音を聞きますと、 「ああ、もう初蛙が鳴いてい

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆17 春
  • 作品社
  • 1984(昭和59)年3月25日