ぶんぱい
分配

冒頭文

四人もある私の子供の中で、亡(な)くなった母(かあ)さんを覚えているものは一人(ひとり)もない。ただいちばん上の子供だけが、わずかに母さんを覚えている。それもほんの子供心に。ようやくあの太郎が六歳ぐらいの時分の幼い記憶で。 母さんを記念するものも、だんだんすくなくなって、今は形見(かたみ)の着物一枚残っていない。古い鏡台古い箪笥(たんす)、そういう道具の類ばかりはそれでも長くあって、毎朝

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1956(昭和31)年3月26日、1969(昭和44)年9月16日第13刷改版