いえ 01 (じょう)
家 01 (上)

冒頭文

一 橋本の家の台所では昼飯(ひる)の仕度に忙しかった。平素(ふだん)ですら男の奉公人だけでも、大番頭から小僧まで入れて、都合六人のものが口を預けている。そこへ東京からの客がある。家族を合せると、十三人の食う物は作らねばならぬ。三度々々この仕度をするのは、主婦のお種に取って、一仕事であった。とはいえ、こういう生活に慣れて来たお種は、娘や下婢(おんな)を相手にして、まめまめしく働いた。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 家(上)
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1955(昭和30)年5月10日、1968(昭和43)年6月30日第17刷改版