よあけまえ 02 だいいちぶげ |
夜明け前 02 第一部下 |
冒頭文
第八章 一 「もう半蔵も王滝(おうたき)から帰りそうなものだぞ。」 吉左衛門(きちざえもん)は隠居の身ながら、忰(せがれ)半蔵の留守を心配して、いつものように朝茶をすますとすぐ馬籠(まごめ)本陣の裏二階を降りた。彼の習慣として、ちょっとそこいらを見回りに行くにも質素な平袴(ひらばかま)ぐらいは着けた。それに下男の佐吉が手造りにした藁草履(わらぞうり)をはき、病後はとかく半身の
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 夜明け前 第一部下
- 岩波文庫、岩波書店
- 1969(昭和44)年2月17日