やまがたありとものくつ
山県有朋の靴

冒頭文

一 「平七(へいしち)。——これよ、平七平七」 「…………」 「耳が遠いな。平七はどこじゃ。平(へい)はおらんか!」 「へえへえ。平はこっちにおりますんで、只今、お靴(くつ)を磨(みが)いておりますんで」 「庭へ廻れ」 「へえへえ。近ごろまた東京に、めっきり美人がふえましたそうで、弱ったことになりましたな」 「またそういうことを言う。貴様、少うし腰も低くなって、気位(きぐらい)もだん

文字遣い

新字新仮名

初出

「講談倶楽部 十二月号」1933(昭和8)年

底本

  • 小笠原壱岐守
  • 講談社大衆文学館文庫、講談社
  • 1997(平成9)年2月20日