りゅうこうあんさつぶし
流行暗殺節

冒頭文

一 「足音が高いぞ。気付かれてはならん。早くかくれろっ」 突然、鋭い声があがったかと思うと一緒に、バラバラと黒い影が塀(へい)ぎわに平(ひら)みついた。 影は、五つだった。 吸いこまれるように、黒い板塀の中へとけこんだ黒い五つの影は、そのままじっと息をころし乍(なが)ら動かなかった。 チロ、チロと、虫の音(ね)がしみ渡った。 京の夜は、もう秋だった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論 十月号」1932(昭和7)年

底本

  • 小笠原壱岐守
  • 講談社大衆文学館文庫、講談社
  • 1997(平成9)年2月20日