しんきろう
蜃気楼

冒頭文

一 或秋の午頃(ひるごろ)、僕は東京から遊びに来た大学生のK君と一しょに蜃気楼(しんきろう)を見に出かけて行った。鵠沼(くげぬま)の海岸に蜃気楼の見えることは誰(たれ)でももう知っているであろう。現に僕の家(うち)の女中などは逆まに舟の映ったのを見、「この間の新聞に出ていた写真とそっくりですよ。」などと感心していた。 僕等は東家(あずまや)の横を曲り、次手(ついで)にO君も誘うこと

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1927(昭和2)年3月

底本

  • 昭和文学全集 第1巻
  • 小学館
  • 1987(昭和62)年5月1日