やりがたけだいさんかいとざん
槍ヶ岳第三回登山

冒頭文

雨で閉じこめられた、赤沢小舎の一夜が明ける。前の日、常念岳から二の股を下りて、私たちの一行より早く、この小舎に着いていられた冠君は、今朝も早く仕度を済まされ、「お先へ」と言って、人夫どもを連れて出て行かれる、「若い衆天幕取れやい」と嘉門次の号令がかかる、天幕を組み立てた糸がスルスルと手繰(たぐ)られて、雫のポタポタする重い油紙が、跪(ひざ)まずくように岩盤の上に折り重なる、飯を炊(かし)いだあとの

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆10 山
  • 作品社
  • 1983(昭和58)年6月25日