宵(よい)から勢いを増した風は、海獣の飢えに吠ゆるような音をたてて、庫裡(くり)、本堂の棟(むね)をかすめ、大地を崩さんばかりの雨は、時々砂礫(すなつぶて)を投げつけるように戸を叩いた。縁板という縁板、柱という柱が、啜(すす)り泣くような声を発して、家体は宙に浮かんでいるかと思われるほど揺れた。 夏から秋へかけての暴風雨(あらし)の特徴として、戸内の空気は息詰まるように蒸し暑かった。その