よるのすみだがわ
夜の隅田川

冒頭文

夜の隅田川の事を話せと云ったって、別に珍らしいことはない、唯闇黒というばかりだ。しかし千住から吾妻橋、厩橋、両国から大橋、永代と下って行くと仮定すると、随分夜中に川へ出て漁猟(りょう)をして居る人が沢山ある。尤も冬などは沢山は出て居ない、然し冬でも鮒、鯉などは捕(と)れる魚だから、働いて居るものもたまにはある。それは皆んな夜縄を置いて朝早く捕るのである。此の夜縄をやるのは矢張り東京のものもやるが、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 露伴全集 第29巻
  • 岩波書店
  • 1954(昭和29)年12月4日