りょこうのこんじゃく
旅行の今昔

冒頭文

旅行に就いて何か経験上の談話をしろと仰(おっし)ゃるのですか。 どう致しまして。碌に旅行という程の旅行を仕た事も無いのですもの、御談し仕度くっても是といって御談し申上げるような事も有りません。いくら経験だと申して、何処其処の山で道に迷ったとか、或は又何処其処の海岸で寄宿(のじゅく)をしたとかいうような談は、文章にでも書いて其の文章に詩的の香があったらば少しは面白いか知れませぬが、ただ御話

文字遣い

新字新仮名

初出

「新聲」1906(明治39)年8月号

底本

  • 露伴全集 第29巻
  • 岩波書店
  • 1954(昭和29)年12月4日