はなのいろいろ
花のいろ/\

冒頭文

梅 梅は野にありても山にありても、小川のほとりにありても荒磯の隈にありても、たゞおのれの花の美しく香の清きのみならず、あたりのさまをさへ床しきかたに見さするものなり。崩れたる土塀、歪みたる衡門、あるいは掌のくぼほどの瘠畠、形ばかりなる小社などの、常は眼にいぶせく心にあかぬものも、それ近くにこの花の一ト木二タ木咲き出づるあれば、をかしきものとぞ眺めらるゝ。たとへば徳高く心清き人の、如何なるとこ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新小説」1898(明治31)年3月号 ~ 7月号に「百花譜」と題し掲載

底本

  • 露伴全集 第29巻
  • 岩波書店
  • 1954(昭和29)年12月4日