ずっと前の事であるが、或(ある)人から気味合(きみあい)の妙(みょう)な談(はなし)を聞いたことがある。そしてその話を今だに忘れていないが、人名や地名は今は既に林間(りんかん)の焚火(たきび)の煙のように、何処(どこ)か知らぬところに逸(いっ)し去っている。 話をしてくれた人の友達に某甲(なにがし)という男があった。その男は極めて普通人型(がた)の出来の好い方(ほう)で、晩学ではあったが