みずのとうきょう
水の東京

冒頭文

上野の春の花の賑ひ、王子の秋の紅葉の盛り、陸の東京のおもしろさは説く人多き習ひなれば、今さらおのれは言はでもあらなん。たゞ水の東京に至つては、知るもの言はず、言ふもの知らず、江戸の往時(むかし)より近き頃まで何人(なんびと)もこれを説かぬに似たれば、いで我試みにこれを語らん。さはいへ東京はその地勢河を帯にして海を枕せる都なれば、潮(しお)のさしひきするところ、船の上り下りするところ、一潮(ト)条(

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 一国の首都 他一篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1993(平成5)年5月17日