せんにん
仙人

冒頭文

上 いつごろの話だか、わからない。北支那の市(まち)から市を渡って歩く野天(のてん)の見世物師に、李小二(りしょうじ)と云う男があった。鼠(ねずみ)に芝居をさせるのを商売にしている男である。鼠を入れて置く嚢(ふくろ)が一つ、衣装や仮面(めん)をしまって置く笥(はこ)が一つ、それから、舞台の役をする小さな屋台のような物が一つ——そのほかには、何も持っていない。 天気がいいと、四つ辻の

文字遣い

新字新仮名

初出

「新思潮」1916(大正5)年8月

底本

  • 芥川龍之介全集1
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年9月24日