こはくのパイプ
琥珀のパイプ

冒頭文

私は今でもあの夜の光景(ありさま)を思い出すとゾットする。それは東京に大地震があって間もない頃であった。 その日の午後十時過ぎになると、果して空模様が怪しくなって来て、颱風(たいふう)の音と共にポツリポツリと大粒の雨が落ちて来た。其の朝私は新聞に「今夜半颱風帝都に襲来せん」とあるのを見たので役所にいても終日気に病んでいたのだが、不幸にも気象台の観測は見事に適中したのであった。気に病んでい

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1924(大正13)年6月

底本

  • 日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎集
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 1984(昭和59)年12月21日