ふどうするちか
浮動する地価

冒頭文

一 ぽか〳〵暖かくなりかけた五月の山は、無気味で油断がならない。蛇が日向ぼっこをしたり、蜥蜴(とかげ)やヤモリがふいにとび出して来る。 僕は、動物のうちで爬虫類が一番きらいだ。 人間が蛇を嫌うのは、大昔に、まだ人間とならない時代の祖先が、爬虫に、ひどくいじめられた潜在意識によるんだ、と云う者がある。僕の祖先が、鳥であったか、馬であったか、それは知らない。が、あの無気味

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 黒島傳治全集 第二巻
  • 筑摩書房
  • 1970(昭和45)年5月30日