ぶそうせるしがい
武装せる市街

冒頭文

一 五六台の一輪車が追手に帆をあげた。 そして、貧民窟を横ぎった。塵埃(ほこり)の色をした苦力(クリー)が一台に一人ずつそれを押していた。たった一本しかない一輪車の車軸は、巨大な麻袋(マアタイ)の重みを一身に引き受けて苦るしげに咽びうめいた。貧民窟の向う側は、青い瓦の支那兵営だ。 一輪車は菱形の帆をふくらましたまゝ貧民窟から、その兵営の土煉瓦のかげへかくれて行った。帆

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 筑摩現代文学大系 38 小林多喜二 黒島傳治 徳永直 集
  • 筑摩書房
  • 1978(昭和53)年12月20日