そり

冒頭文

一 鼻が凍(い)てつくような寒い風が吹きぬけて行った。 村は、すっかり雪に蔽(おお)われていた。街路樹も、丘も、家も。そこは、白く、まぶしく光る雪ばかりであった。 丘の中ほどのある農家の前に、一台の橇(そり)が乗り捨てられていた。客間と食堂とを兼ねている部屋からは、いかにも下手(へた)でぞんざいな日本人のロシア語がもれて来た。 「寒いね、……お前さん、這入(はい)っ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 現代日本文學大系 56 葉山嘉樹・黒島傳治・平林たい子集
  • 筑摩書房
  • 1971(昭和46)年7月15日