こきょうをおもう
故郷を想う

冒頭文

内地へ来て以来かれこれ十年近くなるけれど、殆(ほと)んど毎年二三度は帰っている。高校から大学へと続く学生生活の時分は、休暇の始まる最初の日の中に大抵蒼惶(そうこう)として帰って行った。われながらおかしいと思う程、試験を終えると飛んで宿に帰り、急いで荷物を整えてはあたふたと駅へ向った。それも間に合う一番早い時間の汽車で帰ろうとするのである。 故郷はそれ程までにいいものだろうかと、時々不思議

文字遣い

新字新仮名

初出

「知性」1941(昭和16)年5月号

底本

  • 光の中に 金史良作品集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年4月10日