げんかいなだみっこう
玄海灘密航

冒頭文

荒潮の渦巻く玄海灘を中心にして、南朝鮮、済州、対馬、北九州等の間には、昔から伝説にもあるように住民の漂流がしばしばあったと云われている。或は最初の文化的な交流というものは、概してこういう漂流民を通じてなされたのであろう。——だが面白いことには文明の今日においてさえ、漂流という形を借りたものが又想像以上にあるのである。それが密航である。 けれど密航と云っても、そうロマンチックなものではなく

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸首都」1940(昭和15)年8月号

底本

  • 光の中に 金史良作品集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年4月10日