冒頭文

棒の両端に叺(かます)を吊して、ぶらんぶらん担ぎ廻る例の「皆喰爺」が、寮の裏で見える度に、私は尹書房(ユンソバング)を思い出すのだ。 尹さんは少しはましのチゲ(担具)労働者である。然し土壇場にまで突き込まれて、喜劇ならぬかわった意慾の生活を弄(ろう)する点では、全く同じいだろう。 早朝起き上ると、尹さんは先ず自分の版図を検分し出すのだ。崩れかかった彼の小屋が、しょんぼり立つ低湿

文字遣い

新字新仮名

初出

「佐賀高等学校文科乙類卒業記念誌」1936(昭和11)年2月

底本

  • 光の中に 金史良作品集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年4月10日