新村博士の随筆集「ちぎれ雲」が出版書肆から届けられた。其表紙の絵をば著者と書房とから頼まれて作つたのであるから、其包を開くときにまた異(こと)やうの楽みがあつた。新村博士の頼となれば何を措いても諾はなければなるまいと思ひ、五月の雨雲に暗い日曜日の朝の事であつた、紙を捜して図案を考へた。小さい庭には小手鞠の花がしをらしく咲き乱れてゐた。隣の庭には枇杷の実がやうやく明るみかけてゐた。 小手鞠