しょうねんのし
少年の死

冒頭文

八月の曇つた日である。一方に海があつて、それに鉤手(かぎのて)に一連の山があり、そしてその間が平地として、汽車に依つて遠國の蒼渺たる平原と聯絡するやうな、或るやや大きな町の空をば、この日例(いつ)になく鈍い緑色の空氣が被(おほ)つてゐる。 大きな河が海に入る處では盛んな怒號が起つた。末廣がりになつた河口までは大河は全く平滑で、殆ど動(どう)とか力とかいふ感じを與へない、鼠一色(いつしき)

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本文學全集 17 小山内薫 木下杢太郎 吉井勇集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年4月5日