あるこうぎしょ
ある抗議書

冒頭文

司法大臣閣下。 少しの御面識もない無名の私から、突然かかる書状を、差上げる無礼をお許し下さい。私は大正三年五月二十一日千葉県千葉町の郊外で、兇悪無残な強盗の為に惨殺されました角野一郎(すみのいちろう)夫妻の肉親のものでございます。即ち一郎妻とし子の実弟であります。私の姉夫婦の悲惨な最期は、当時東京の各新聞にも精(くわ)しく報道されましたから、『千葉町の夫婦殺し』なる事件は、閣下の御記憶の

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1919(大正8)年4月号

底本

  • 日本探偵小説全集11 名作集1
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 1996(平成8)年6月21日