ごうく
業苦

冒頭文

只、假初(かりそめ)の風邪だと思つてなほざりにしたのが不可(いけな)かつた。たうとう三十九度餘りも熱を出し、圭一郎(けいいちらう)は、勤め先である濱町(はまちやう)の酒新聞社を休まねばならなかつた。床に臥(ふ)せつて熱に魘(うな)される間も、主人の機嫌を損じはしまいかと、それが譫言(うはごと)にまで出る程絶えず惧(おそ)れられた。三日目の朝、呼び出しの速達が來た。熱さへ降れば直ぐに出社するからとあ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 日本文學全集 34 梶井基次郎 嘉村礒多 中島敦集
  • 新潮社
  • 1962(昭和37)年4月20日