第一章 明治 1 マニラをバギオに結ぶベンゲット道路のうち、ダグバン・バギオ山頂間八十キロの開鑿(さく)は、工事監督のケノン少佐が開通式と同時に将軍になったというくらいの難工事であった。 人夫たちはベンゲット山腹五千フィートの絶壁をジグザグによじ登りながら作業しなければならず、スコールが来ると忽ち山崩れや地滑りが起って、谷底の岩の上へ家守のようにたたき潰された。風土病の危