やまのおとをききながら
山の音を聴きながら

冒頭文

ようべは初めて、澄んだ空を見た。宇都宮辺と思はれる空高く、頻りに稲光りがする。もう十分秋になつて居るのに、虫一疋鳴かない。小山の上の大きな石に腰をおろして居ると、冷さが、身に沁みて来るやうだ。物音一つしない山の中に、幽かに断え間なく響いて居るのは、夜鷹が谷の向うに居るのだらう。八時近くなつて、月の光りが明るくさして来た。八月末になつて、豪雨が三度も来て、山は急にひつそりしてしまつた。ま昼間、目の下

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆67 宿
  • 作品社
  • 1988(昭和63)年5月25日