くさかようこのたんじょうとしぼう
久坂葉子の誕生と死亡

冒頭文

今からざっと三年半前、一九四九年の夏前に、久坂葉子は、この世に存在しはじめた。人間の誕生は、偶然に無意識のうちに、それでいておごそかに行われるものだと思う。しかし、この名前は、自分の意識的な行為によって名附けられ、誕生を強いたのであった。この名を、原稿用紙の片隅に記した時は、私一人しか認めることの出来ない名前であったのだから、確かに、この世に存在し得たものではなかった。誰かが認めなければ、その物体

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 久坂葉子作品集 女
  • 六興出版
  • 1978(昭和53)年12月31日