はんしちとりものちょう 36 ふゆのきんぎょ
半七捕物帳 36 冬の金魚

冒頭文

一 五月のはじめに赤坂をたずねると、半七老人は格子のまえに立って、稗蒔売(ひえまきうり)の荷をひやかしていた。わたしの顔をみると笑いながら会釈(えしゃく)して、その稗蒔のひと鉢を持って内へはいって、ばあやにいいつけて幾らかの代を払わせて、自分は先に立って私をいつもの横六畳へ案内した。 「急に夏らしくなりましたね」と、老人は青々した小さい鉢を縁側に置きながら云った。「しかし此の頃はな

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 時代推理小説 半七捕物帳(三)
  • 光文社時代小説文庫、光文社
  • 1986(昭和61)年5月20日