おぼろ

冒頭文

早春を脱け切らない寒さが、思ひの外にまだ肩や肘を掠める。しかし、宵の小座敷で燈に向つてゐると、夜のけはひは既に朧である。うるめる物音、物影。 「日本的なるもの」の一つに「朧」がある。よし、それが淨土教の影響によるにもせよ、老莊道學の示唆を得たにもせよ、わが國人の氣魄とやはらぎを享けて生活趣味の常用燈となつた以上、立派に國産である。單に外來のみなる淨土教の釀す雰圍氣ならば、理想偏愛の一邊に墮ちるし

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆17 春
  • 作品社
  • 1984(昭和59)年3月25日