かわあかり
河明り

冒頭文

私が、いま書き続けている物語の中の主要人物の娘の性格に、何か物足りないものがあるので、これはいっそのこと環境を移して、雰囲気でも変えたらと思いつくと、大川の満(み)ち干(ひ)の潮がひたひたと窓近く感じられる河沿いの家を、私の心は頻(しき)りに望んで来るのであった。自分から快適の予想をして行くような場所なら、却(かえ)ってそこで惰(なま)けて仕舞いそうな危険は充分ある。しかし、私はこの望みに従うより

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

底本

  • 昭和文学全集 第5巻
  • 小学館
  • 1986(昭和61)年12月1日