つるはやみき
鶴は病みき

冒頭文

白梅の咲く頃となると、葉子はどうも麻川荘之介氏を想(おも)い出していけない。いけないというのは嫌という意味ではない。むしろ懐しまれるものを当面に見られなくなった愛惜のこころが催されてこまるという意味である。わが国大正期の文壇に輝いた文学者麻川荘之介氏が自殺してからもはや八ヶ年は過ぎた。 白梅と麻川荘之介氏が、何故葉子の心のなかで相関聯(あいかんれん)しているのか、麻川氏と葉子の最後の邂逅

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学界」1936(昭和11)年6月号

底本

  • 昭和文学全集 第5巻
  • 小学館
  • 1986(昭和61)年12月1日