きんぎょりょうらん
金魚撩乱

冒頭文

今日も復一はようやく変色し始めた仔魚(しぎょ)を一匹(ぴき)二匹(ひき)と皿(さら)に掬(すく)い上げ、熱心に拡大鏡で眺(なが)めていたが、今年もまた失敗か——今年もまた望み通りの金魚はついに出来そうもない。そう呟(つぶや)いて復一は皿と拡大鏡とを縁側(えんがわ)に抛(ほう)り出し、無表情のまま仰向(あおむ)けにどたりとねた。 縁から見るこの谷窪(たにくぼ)の新緑は今が盛(さか)りだった

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • ちくま日本文学全集 岡本かの子
  • 筑摩書房
  • 1992(平成4)年2月20日