ひぼんじんとぼんじんのいしょ
非凡人と凡人の遺書

冒頭文

牛や魚は死ぬ時遺言しない。鳥や松の木も死ぬ時遺言しない。遺言するのは人間だけである。死ぬ時自分以外に他あるを顧みて其処に何か責任上の一言を遺して置く。これ人間が万物の霊長たる由縁であらう。 毎年正月元日に筆を改めて遺言状を書き直すといふ用意周到の人が僕の知つてる範囲で二人ある。然も二人共可成り永生きの方なので何通書き直したか判らぬ。年々そう書き直す必要があるだらうかと訊いたら一人は『葬儀

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻17 遺言
  • 作品社
  • 1992(平成4)年7月25日