うごかぬげいぐん
動かぬ鯨群

冒頭文

一 「どかんと一発撃てば、それでもう、三十円丸儲けさ」 いつでも酔って来るとその女は、そう云ってマドロス達を相手に、死んだ夫の話をはじめる。捕鯨船北海丸(ほくかいまる)の砲手で、小森安吉(こもりやすきち)と云うのが、その夫の名前だった。成る程女の云うように、生きている頃は、一発銛(もり)を撃ち込む度に、余分な賞与にありついていた。が、一年程前に時化(しけ)に会って、北海丸の沈没と共に行衛(

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1936(昭和11)年10月号

底本

  • とむらい機関車
  • 国書刊行会
  • 1992(平成4)年5月25日初版第1刷