ちんにゅうしゃ
闖入者

冒頭文

一 富士山の北麓、吉田町から南へ一里の裾野の山中に、誰れが建てたのか一軒のものさびた別荘風の館がある。その名を、岳陰荘(がくいんそう)と呼び、灰色の壁に這い拡がった蔦葛(つたかずら)の色も深々と、後方遙かに峨々(がが)たる剣丸尾(けんまるび)の怪異な熔岩台地を背負い、前方に山中湖を取繞(めぐ)る鬱蒼たる樹海をひかえて、小高い尾根の上に絵のように静まり返っていた。——洋画家の川口亜太郎(かわぐ

文字遣い

新字新仮名

初出

「ぷろふいる」ぷろふいる社、1936(昭和11)年1月号

底本

  • とむらい機関車
  • 国書刊行会
  • 1992(平成4)年5月25日