はえおとこ
蠅男

冒頭文

発端 問題の「蠅男(はえおとこ)」と呼ばれる不可思議なる人物は、案外その以前から、われわれとおなじ空気を吸っていたのだ。 只(ただ)われわれは、よもやそういう奇怪きわまる生物が、身辺近くに棲息(せいそく)していようなどとは、夢にも知らなかったばかりだった。 まことにわれわれは、へいぜい目にも耳にもさとく、裏街の抜け裏の一つ一つはいうにおよばず、溝板(どぶいた)の下に三日前

文字遣い

新字新仮名

初出

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

底本

  • 海野十三全集 第2巻 俘囚
  • 三一書房
  • 1991(平成3)年2月28日