じごくかいどう
地獄街道

冒頭文

1 銀座の舗道(ほどう)から、足を踏みはずしてタッタ百メートルばかり行くと、そこに吃驚(びっくり)するほどの見窄(みすぼ)らしい門があった。 「おお、此処(ここ)だ——」 と辻永(つじなが)がステッキを揚(あ)げて、後から跟(つ)いてくる私に注意を与えた。 「ム——」 まるで地酒(じざけ)を作る田舎家(いなかや)についている形ばかりの門と選ぶところがなかった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「モダン日本」1933(昭和8)年9月号

底本

  • 海野十三全集 第2巻 俘囚
  • 三一書房
  • 1991(平成3)年2月28日