よなきてっこつ
夜泣き鉄骨

冒頭文

1 真夜中に、第九工場の大鉄骨(だいてっこつ)が、キーッと声を立てて泣く—— という噂が、チラリと、わしの耳に、入った。 「そんな、莫迦(ばか)な話が、あるもんか!」 わしは、検査ハンマーを振る手を停めて、カラカラと笑った。 「そう笑いなさるけどナ、組長さん」その噂を持ってきた職工は、慄(おび)えた眼を、わしの方に向けて云った。「昨夜のことなんだよ、それは……。火

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1932(昭和7)年8月号

底本

  • 海野十三全集 第2巻 俘囚
  • 三一書房
  • 1991(平成3)年2月28日