くうちゅうふんぼ
空中墳墓

冒頭文

ぽっかり、眼が醒(さ)めた。 ガチャリ、ガチャリ、ゴーウウウ。 四十階急行のエレベーターが昇って来たのだった。 「誰か来たナ」 まだ半ば夢心地の中に、そう感じた。職業意識のあさましさよ、か。 この四五日というものは夜半から暁にかけてまでも活躍をつづけたので身体は綿のごとく疲れていた。それだのに、思ったほどの熟睡もとれず、神経は尖(とが)る一方であった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1928(昭和3)年10月号

底本

  • 海野十三全集 第1巻 遺言状放送
  • 三一書房
  • 1990(平成2)年10月15日