でんきぶろのかいしじけん
電気風呂の怪死事件

冒頭文

1 井神陽吉(いがみようきち)は風呂(ふろ)が好きだった。 殊(こと)に、余り客の立て混(こ)んでいない昼湯(ひるゆ)の、あの長閑(のどか)な雰囲気(ふんいき)は、彼の様(よう)に所在(しょざい)のない人間が、贅沢(ぜいたく)な眠(ねむり)から醒(さ)めたのちの体の惰気(だき)を、そのまま運んでゆくのに最も適した場所であった。 それに、昨日今日の日和(ひより)に、冬の名残

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1928(昭和3)年4月号

底本

  • 海野十三全集 第1巻 遺言状放送
  • 三一書房
  • 1990(平成2)年10月15日