せいこのしじん
西湖の屍人

冒頭文

1 銀座裏の酒場(バー)、サロン船(ふね)を出たときには、二人とも、ひどく酩酊(めいてい)していた。 私は私で、黄色い疎(まば)らな街燈に照らしだされた馴染(なじみ)の裏街が、まるで水の中に漬(つか)っているような気がしたし、帆村(ほむら)のやつは帆村のやつで、黒いソフトを名猿(めいえん)シドニーのように横ちょに被り、洋杖(ステッキ)がタンゴを踊りながら彼の長い二本の脛(すね)をひ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

底本

  • 海野十三全集 第1巻 遺言状放送
  • 三一書房
  • 1990(平成2)年10月15日