あるひのおおいしくらのすけ |
或日の大石内蔵助 |
冒頭文
立てきった障子(しょうじ)にはうららかな日の光がさして、嵯峨(さが)たる老木の梅の影が、何間(なんげん)かの明(あかる)みを、右の端から左の端まで画の如く鮮(あざやか)に領している。元浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)家来、当時細川家(ほそかわけ)に御預り中の大石内蔵助良雄(おおいしくらのすけよしかつ)は、その障子を後(うしろ)にして、端然と膝を重ねたまま、さっきから書見に余念がない。書物は恐らく、
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論」1917(大正6)年9月
底本
- 芥川龍之介全集2
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1986(昭和61)年10月28日