おんせんだより
温泉だより

冒頭文

……わたしはこの温泉宿(やど)にもう一月(ひとつき)ばかり滞在(たいざい)しています。が、肝腎(かんじん)の「風景」はまだ一枚も仕上(しあ)げません。まず湯にはいったり、講談本を読んだり、狭い町を散歩したり、——そんなことを繰り返して暮らしているのです。我ながらだらしのないのには呆(あき)れますが。(作者註。この間(あいだ)に桜の散っていること、鶺鴒(せきれい)の屋根へ来ること、射的(しやてき)に

文字遣い

新字新仮名

初出

「女性」1925(大正14)年6月

底本

  • 芥川龍之介全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年3月24日