こうおうろく
紅黄録

冒頭文

成東(なるとう)の停車場をおりて、町形をした家並みを出ると、なつかしい故郷の村が目の前に見える。十町ばかり一目に見渡す青田のたんぼの中を、まっすぐに通った県道、その取付きの一構え、わが生家の森の木間から変わりなき家倉の屋根が見えて心も落ちついた。 秋近き空の色、照りつける三時過ぎの強き日光、すこぶるあついけれども、空気はおのずから澄み渡って、さわやかな風のそよぎがはなはだ心持ちがよい。一

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 野菊の墓他六篇
  • 新学社文庫、新学社
  • 1968(昭和43)年6月15日